GMJ 日本ゼラチン工業組合


平成17年8月25日
ゼラチン製造における不活化研究に関する海外国内情報調査報告書
(2005/02/15)のお知らせ
日本ゼラチン工業組合加盟各社が製造するゼラチンは、いずれもBSEに対する安全性が十分確保された安全な製品です。
日本ゼラチン工業組合(GMJ)は、日本でのBSE発生確認以前から、原料サプライヤーとの緊密な連携のもと、原料原産国の明確化、BSEリスク部位の排除、汚染防止など、ゼラチン製造に適した安全な牛由来原料の確保に努め、食品、医薬品の関連規制を遵守してまいりました。
これに加えて、ゼラチンが、様々な精製工程を経て製造された高純度のタンパク質であることも、BSEに対する安全性の保証を上積みしています。ゼラチン製造における化学的・物理的処理や加熱処理には、BSEの感染リスクを著しく低減させるいわゆる不活化能があり、万一、交差汚染によって原料中にBSE伝播物質が存在したとしても、最終製品には感染性が残らない、といわれてきました。
ゼラチン製造がもつ不活化能を実証するため、欧州ゼラチン工業組合(GME)は、10年にわたり、様々なバリデーション(確認)研究1, 2, 3, 4) を行なってきました。すでにご報告の通り、GMEの研究報告は、2002年6月、日本ゼラチン工業組合主催の「ゼラチンのBSE安全性に関する研究報告会5, 6)」で紹介されております。
日本で製造されるゼラチンのBSE安全性の理解をさらに進めるために、BSE研究ならびにゼラチン製造に関わる国内研究者による表題の調査が行なわれ、当組合加盟のゼラチン製造業者が実施するBSEリスク対策やBSE不活化に対するゼラチン製造工程の有効性が確認されました。
以下、その調査報告書7) の要旨をご報告し、国内ゼラチンのBSE安全性を改めてお知らせ申し上げます。
なお、調査報告書につきましては、当工業組合の事務局または会員会社にお問合せ下さい。
1.調査概要
本調査は、経済産業省の平成16年度皮革産業振興対策補助事業の「ゼラチン製造におけるBSE不活化処理に関する海外情報調査および国内広報事業」として実施された。日本におけるBSE研究の第一人者である岐阜大学教授 獣医学博士石黒直隆先生ならびにゼラチン製造に精通した兵庫県技術開発指導員の工学博士隅田 卓先生(元兵庫県立工業技術センター)の両名を調査委員とする調査委員会によって、次のような調査が行なわれた。
A) GME製造条件にもとづく実験モデルで実施された不活化研究の有効性の検証評価
B) 日本のゼラチン製造業者が実施する生産活動が、GMEメンバーのそれらと等価であるかを比較検討し、国産牛骨ゼラチンのBSEに対する安全性確保の実態検証
2004年10月 1日に英国エジンバラの動物衛生研究所(Institute for Animal Health, Edinburgh)を訪問し、GME研究の縮小モデル実験者Dr. Grobben, バイオ・アッセイ実験者Dr. Somerville, Dr .Taylor らと面談し、研究の詳細を直接取材することができた。また、GMJに加盟する国内3社((株)ニッピ、ゼライス(株)、新田ゼラチン(株))の牛骨ゼラチン工場と、GME加盟の欧州企業2社(DGF Stoess AG Eberbach / Memmingen, Germany、PB Gelatins Vilvoorde, Belgium)の3事業所を調査対象として、2004年8月から9月にかけて、日本、ドイツ、ベルギーの各地に調査委員が赴き、生産実態の実地調査が行なわれた。
その結果、第三者の国内エキスパートにより、以下のことが確認された。
GME製造条件にもとづく実験モデルによるGME不活化研究2, 3, 4) の有効性が検証された
日本の牛骨ゼラチン製造業者の各工程条件は、GME条件と等価であること。そして、製造が適切に実施されており、BSE不活化に有効に寄与していることが確認された
また、原産国や家畜の健康、使用部位、SRMフリーなどの証明文書、ゼラチン製造工程の品質記録類の管理、運用は適切で、原料トレーサビリティが確保できていると考えられる
すなわち、日本のゼラチン製造業者は、牛骨ゼラチンの潜在的なBSEリスクへの対策を適切に実施しており、国内の牛骨ゼラチンは、BSEに対する安全性が確保された製品であることが改めて確かめられた。
2.調査報告書の要旨
ゼラチンは、食品、医薬品に幅広く用いられるため、高い安全性の確保とその検証が大きな課題となる。ゼラチン製造におけるBSE対策の要件として、(1) 安全な原材料の調達、(2) 製造工程の標準化と保証、(3) 製造工程での汚染TSE病原体の不活化とその検証、の3点が挙げられる。


1.製造工程での汚染TSE病原体の不活化とその検証

TSE病原体に汚染した原材料が、万一ゼラチン製造工程に入った場合、工程内の各種処理が、TSE病原体を排除あるいは不活化する能力を有しているかが、検証の目的である。検証実験では、ゼラチン製造工場を模した縮小モデルを用い、人為的に添加(スパイク)された高感染力価のTSE病原体が、各製造工程を経ることで、どの程度不活化されるかを確認した2)3)。

A.出発原料
豚、魚原料には、もとよりBSEリスクはない。また牛由来であっても、骨、皮には、BSE感染性は検出されない。牛由来ゼラチンのBSEリスクとして問題になるのは、脳などの高感染性組織が、牛骨を汚染するという潜在的な可能性である。牛皮ではこのような交差汚染は考えられない。そこで、出発原料として、TSE感染物質を牛骨に添加(スパイク)し、現実に起こり得るよりも1000倍高いレベルに汚染させたものを用いた。この交差汚染は、実際のゼラチン製造では起こり得ない「最悪のシナリオ」を想定している。

B.縮小ゼラチン製造モデル実験
ゼラチンの製造条件や設備は、各社ごとにそれぞれ異なるため、牛骨ゼラチンの縮小モデル実験は、以下の点を考慮し、各社が最低限に有する条件で行なうようデザインされた2, 3)。
1. 全ての工程の基本的条件を縮小モデル実験で再現する。
2. 基本的な条件でないものも、可能な限り、縮小モデル実験で維持する。
3. 縮小モデル実験で維持できない必要条件でない部分は、不活化に影響を与えないように努める。
検証されたゼラチンの製造工程は、伝統的な製法であるアルカリ処理ゼラチン、酸処理ゼラチンが検討された。スパイク牛骨を粉砕、脱脂後、希塩酸で脱灰して、オセインを調製し、「アルカリ処理」は、石灰、「酸処理」は、塩酸を用いた原料処理を施した。「酸処理」については、処理前に短時間の苛性ソーダ処理を施す新規な方法も検討した。処理済みの原料を水洗後、温水によってゼラチンを抽出した。得られた未精製ゼラチンは、さらにろ過、イオン交換、濃縮、殺菌の工程で処理し、最終産物とした。

C.感染性評価
スパイク株は、BSE罹患牛由来でマウスにて樹立された301V 株とスクレイピー由来でハムスターで樹立された263K が使われた。両株とも、感染力価が高く安定していること、げっ歯類に脳内接種後発症までの潜伏期間が短いこと、発症の病変が明瞭であること、また、301V 株は、BSE由来で熱抵抗性が極めて高いことが特徴である8)。 スパイク株の感染力価や各処理工程後のサンプルに残存する感染力価は、試料を10 倍段階希釈後、301V 株の試料はVM マウスへの脳内接種(20 マイクロ/匹)で、263K の試料はハムスターへの脳内接種(50 マイクロ/匹)で測定した。接種後、最大600 日間観察して殺処分して、切片の海綿状病変の有無を確認した。本バイオアッセイ系で用いたスパイク株とげっ歯類動物の組み合わせは、TSE検査法の中では最も感度の高い検出系であると言える。

D.結果
アルカリ処理ゼラチン、酸処理ゼラチンとも、全工程を経た精製ゼラチンでは感染性は検出されなかった3, 4, 10)。処理工程ごとにTSE病原体の除去効率に多少の差があるが、それぞれに除去効率を有し、その効果は累積的であった。酸、アルカリによる前処理工程での除去効率は、102.6 〜104.6 で、その後の精製工程(ろ過、イオン交換、高熱殺菌)で、除去効率が上昇した9)。精製工程の中でも、高熱殺菌の除去効率は、301 株で103.0 、263 株で104.1 と高く9)、また、短期苛性ソーダ処理を併用した酸処理ゼラチンでTSE病原体の感染性が観察されない10, 11) など、高温と強アルカリ処理は、TSE病原体の除去・不活化効果に有効であった。
バリデーション研究で用いられたスパイク株の汚染度は、通常のゼラチン製造工程で遭遇するBSE汚染の約1000 倍以上であり、検出系も種の壁のないげっ歯類のバイオアッセイ検出系を使用していることから、ゼラチン製造工程が有する除去・不活化効果は極めて高いことがわかる。したがって、牛骨ゼラチンを摂取して人にくるBSE汚染のリスクはゼロに近いものと思われる12)。



2.国内ゼラチン製造の実態調査

A. 牛骨原料の特定危険部位(SRM)管理とトレーサビリティシステム
GMJ加盟の各社は、すべての牛骨原料を海外に依存しているが、GME同様に新鮮骨由来であり、原産国や家畜の健康、使用部位、SRMフリーなどを証明する文書をサプライヤーから入手している。国内3社の品質記録類の管理状況を調査した結果、適正に運用されていることを確認した。GMEによると、欧州域内の新鮮骨原料については、と畜場以降の完全なトレーサビリティが確立しており、欧州外のCB(粉砕骨)についても、トレーサビリティが確立しているという。GMJ加盟各社の原料も、GME同様に原料トレーサビリティが確保できている。
EMEA(欧州医薬品庁)の「医薬品を介したTSE感染物質の汚染リスクを最小化するためのガイダンス13)」によれば、牛骨ゼラチンは、@ 原産国の明確化とトレーサビリティの確立、A SRMとして頭蓋骨と脊髄除去を推奨。高リスク国はせき柱除去が望ましい。B HACCP やISO9000 等による工程の監視 が求められている。日本企業は、ISO9000やEDQM(欧州医薬品評価局)の認証を取得し、上記のEMEAガイダンス等にしたがっている。オーストラリア、ニュージーランド、インドなどのBSE非発生国の牛骨原料には、せき柱除去は必ずしも求められていないが、前取りして、より安全を目指し、自主的に除去対応するように移行しつつある。

B.不活化に関係する製造工程について
工場調査の結果、不活化に関連する製造工程として、酸による脱灰(オセイン化)、原料のアルカリ処理(石灰漬)、ろ過、イオン交換、殺菌について、GMJ加盟各社の処理条件3, 4) は、GME同様、不活化研究で検証された典型的なゼラチン製造条件に適合していた。インド原料骨の脱脂システム14) は、GMEとは異なるが、脱脂方法の違いは、脱脂後の原料処理工程やゼラチン精製における高温滅菌などの効果を考慮すると、トータルの不活化効果の違いはそう大きくない。また、インド砕骨の温水洗浄工程の導入で、欧州条件15) により近づくものと考えられる。
GME研究報告書における原料処理(脱灰、石灰漬)、ゼラチン製造(ろ過、イオン交換、殺菌)の最低必須条件は、ゼラチン製造業者が採用している典型的な製造条件よりゆるやかであり、当然ながら日本企業の実際の製造条件は、最低条件を十分に満たしている。よって、期待されるBSE不活化効果に対して、妥当な製造条件であると考えられる。

C.国内外のゼラチン製造工場の条件比較
不活化研究の縮小モデル条件と日本企業の実際の作業条件の記録や工場現場の調査結果を、各工程で比較した結果、総合的に見て、日本企業の製造条件は、GMEの典型的な製造条件と同等であると考えられる。同様な原料を使用して、良質のゼラチンを経済的に製造しようとすると、同様な製造条件になるのはむしろ当然であると考えられる。
■ 参考文献
1) Gelatin Manufacturers of Europe : The BSE Safety of Pharmaceutical Gelatin from Bovine Raw Material, Status 28 (1994)
2) Taylor, D.M., Somerville, R.A., Steele, P.J., Grobben, A.H. 2002. Validation of the clearance of TSE agent by the initial steps of the alkaline gelatine manufacturing process. Ref.No.06667/alkaline 301V. p1-96
3) Taylor, D.M., Somerville, R.A., Steele, P.J., Grobben, A.H. 2003. Validation of the clearance of TSE agent by the initial steps of the alkaline gelatine manufacturing process. Ref.No.0667/alkaline 263K. p1-73.
4) Grobben, A.H., Steele, P. J., Somerville, R.A., Taylor, D.M. 2004. Inactivation of the bovine-spongiform-encephalopathy(BSE) agent by the acid and alkaline processes used in the manufacture of bone gelatine. Biotechnol. Appl. Biochem. 39:329-338.
5) 連続講座人獣共通感染症(第133回), 山内一也, http://wwwsoc.nii.ac.jp/jsvs/05_byouki/prion/pf133.html
6) ゼラチンのBSE安全性に関する研究報告会(日本ゼラチン工業組合), 2002 年6 月24 日
7) ゼラチン製造における不活化研究に関する海外・国内情報調査報告書, 石黒直隆, 隅田卓, 2005年 2月 15日
8) Taylor, D.M., Fernie, K., Steele, P.J., McConnell, I., Somerville, R.A. 2002. Thermostability of mouse-passaged BSE and scrapie is independent of host PrP genotype: implications for the nature of the causal agents. J. Gen. Viol. 83:3199-3204.
9) Rohwer, R.G., Grobben, A.H., MacAuley, C.M. 2001. Intermediate data on the removal and inactivation of TSE agents by the individual process steps of the finishing unit operations of the gelatine manufacturing process. (provided in confidence)
10) Grobben, A.H., Steele, P.J. 2003. Validation of the clearance of TSE infectivity by the initial steps of the acid bone gelatine manufacturing prosess with an additional short NaOH treatment. p1-14.
11) Brown, P., Rohwer, R.G. 1986. Newer data on the inactivation of scrapie virus or Creutzfeldt-Jakob Disease virus in brain tissue. 1986. J. Infect. Dis., 153:1145-1148.
12) European Commission. 2002. Updated opinion on the safety with regard to TSE risks of gelatine derived from ruminant bones or hides. Adopted by The Scientific Steering Committee at its meeting of 5-6 December 2002.
13) OJ No C 24, 28. 1.2004, p. 6
14) 平成15年度国際産業調査交流派遣事業報告書(インドにおけるゼラチン原料のトレーサビリティ調査), 平成16年3月, 社団法人 日本皮革産業連合会
15) OJ No L 290, 12.11.1999, p.32

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